健全な経済取引を実現するために #1
- KYCコラム
- KYCC message
- 反社会的勢⼒の実態と企業リスク
KYCコンサルティングが目指す「健全な経済取引」とは
日本の企業社会におけるコンプライアンスチェックの現状
日本企業のコンプライアンスに対する意識や取り組みは、諸外国と比較すると立ち遅れを感じます。適切なやり方やツール、あるいは行政から指し示すものが明確でないことが原因ではないでしょうか。その根源には、日本固有の「水と安全はただ」という認識や性善説などが根強く残っており、企業の経営風土や経営者の意識に影響を与えていると考えます。欧米においては、宗教観の問題や人種間の問題などが身近に存在し、コンプライアンスについてもシビアに捉えています。
欧米におけるコンプライアンスの制度化には、量刑委員会(連邦司法機関内の独立委員会)が制定した連邦量刑ガイドライン[1] が大きく関係しています。量刑ガイドラインは、連邦法上の犯罪に対する量刑裁量の基準を公平かつ明確化するために作成されました。刑罰を決定する上で重要な要素となる有責性スコア(量刑に関する犯罪種類などを数値化したもの)によって、最終的な刑罰の範囲を決定するのです。企業が犯した犯罪については、「効果的なコンプライアンス・プログラム」を有していれば、有責性スコアが軽減される仕組みになっています。多くの経営者は意識的に、コンプライアンスに対する取り組みを強化していったのだ、と考えられます。
[1] 内閣府ホームページ(2022年11月13日付)
https://www8.cao.go.jp/chosei/dokkin/archive/kaisaijokyo/mtng_19th/mtng_19-6.pdf
国際社会のコンプライアンスへの取り組みにおいては、1989年7月、マネーロンダリング(資金洗浄)やテロリストへの資金供給を防ぐ対策を立てる国際組織として、FATF(金融活動作業部会)が設立されました。さらに、1990年4月、各国が法執行、刑事法制、金融規制の分野で取るべき措置をまとめた「40の勧告」を提言し、マネーロンダリングなどの対策に対する国内法制の整備、金融機関による顧客の本人確認などを求めました。日本は、国際社会の動きを追う形で段階的に対策が進められましたが、実施するに当たり、各機関の連携や仕組み作りが思うように構築されず、有効に機能するまでには時間を要しました。
企業活動がグローバル化している現在、日本が世界の企業と経済取引を行うには、日本社会に根付いている風土を払拭する必要があります。経営者自らが、今起きているさまざまなコンプライアンスに関する知識を広げ、意識を高めることが必須です。それが、業務上の不正や汚職を防ぎ、健全な経済取引につながっていきます。
そもそも健全な経済取引とは何なのか、なぜ必要なのか
海外では、マネーロンダリングから連想するものとして、テロ(テロリズム)が挙げられます。マネーロンダリングとテロは同等の位置付けとして認識され、企業の危機管理にもテロ対策が策定されています。マネーローンダリングとは、犯罪や不当な取引で得た資金の出所を分からなくし、捜査機関からの摘発を逃れるための行為です。こういった経済取引によって得られた利益が、犯罪組織の活動や維持、テロ行為に使用されかねません。さらには資金を元手として事業活動に用いられることで、健全な経済取引に大きな悪影響を与えます。そういった資金源へのつながりを断つための対策を施すことが、健全な経済取引の実現に必要不可欠だと考えます。
企業や個人の健全な経済活動を守り、未然に防止することは社会全体の大きな課題です。コンプライアンスに対して無頓着でいると意図せずとも、個人や企業の行いが犯罪行為に使われる事態が起こってしまうのです。
なぜ、KYCコンサルティングは健全な経済取引の実現を目指すのか
KYCコンサルティングは、企業に対して、コンプライアンスに対する意識を高め、犯罪行為に巻き込まれないための防止策を図ることを一番の目的としています。そのことが、健全な経済取引を生み、安心で安全な経済活動へつながり、その先に、テロの撲滅や人種間、宗教間の争いのない社会にしていきたいという強い思いがあります。
コンプライアンスチェックの視野範囲は幅広く、持続可能な開発目標(SDGs)やESG(環境、社会、ガバナンス)の考え方も含まれます。その中には、人権問題や人種間・宗教間差別、現代の奴隷制などがあります。例えば、自社の取引先が開発途上国において、未成年者や女性に対して重労働を強いることに関与してないか、といった観点を持ち、取引先の選定基準を設けることも健全な取引には重要です。
最近では、日本版DBS(子どもに接する仕事に就く人物に性犯罪歴がないことを確認する制度)や人権デューデリジェンス(人権に対する企業としての適切な取り組み)など、組織として人権問題への対応を求められるようになっています。四谷大塚の事件や旧ジャニーズ事務所の性加害問題は、まさに日本版DBSが適応されるべき事案です。これまで日本企業は、人権問題に対して顧慮せず、調査を怠ってきたことが露呈されました。
企業の健全性を判断する指標を持つことが難しい現代において、KYCコンサルティングは、コンプライアンスの概念を広く捉え、的確なツールを用いてチェックすることで、根拠に基づく健全な経済取引の実現を目指しています。
本連載の趣旨と概要
今回から10回にわたり、「日本に健全な経済取引を実現する」ために必要な危機管理について解説していきます。次回からのコラムの詳細は以下の通りです。
#2 日本の企業社会における健全な取引を阻む要因(リスク)とは
#3・4 リスクの実態(リスク区分ごとに解説)
#5・6 不健全な経済取引がもたらす経営危機とは
#7 健全な経済取引を実現するために企業に求められる能力とは
#8 そもそもKYC(本人確認)とは何なのか、なぜ注目を浴びるようになったのか
#9 KYCに対する日本企業の取り組みを概観する
#10 KYC最前線!AI(人工知能)導入が健全な経済取引実現にもたらす効果とは
KYCコンサルティングは、日本企業の危機管理意識を高め、諸外国との経済取引の活性化につなげていきます。